松下健太先生は、当院外科に勤務されていましたが、高度医療研修を利用し、令和4年10月に長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科NCGMサテライトコースに入学。当院での勤務を続けながら研究を実施。このたび、令和6年9月に卒業され、熱帯医学修士、熱帯医学・衛生学ディプロマ(DTM&H)を取得されました。
徳島県立中央病院としても初めての試みでした。
中央病院の医師として新しいキャリアパスを提示してくれた松下先生のご経験を伺いました。
松下健太先生 消化器外科副部長
日本外科学会専門医・日本消化器外科学会専門医・日本救急医学会専門医
(2024年10月現在)
ー どういったきっかけで大学院に進もうと考えられたのでしょうか?
松下先生:医師のキャリア形成の仕方として、医局の大学の大学院に入って博士号を取られる方が大多数だと思われます。飯塚病院に初期研修に行っていた時に、総合診療科がすごく有名な病院なんですけれども、先生方が医局に所属していなかったんです。その後のキャリアを作るために修士号を取りに行ってる方がちらほらいらっしゃいました。MBAを取得して将来病院経営をしたい方や、パブリックヘルスの分野でMPHを取得する方、ロンドン・ハーバードなど海外に行かれる方もいらっしゃいました。飯塚病院でそういった国内・国外留学など多様なキャリア形成の仕方があるんだっていうことを知りました。
自分の場合は、徳島県立中央病院でも外国人の方の救急患者が増えてきていて、そういった方の問題は、疾患だけでなく公衆衛生的なところも、ちゃんと受け皿があるのだろうかと思い始めたことが1点です。
また、カンボジアでの手術ボランティアの経験から、ベースのコモンディジーズが日本と海外では違うことを実感し、将来を見据えた時に学んでおいた方がいいと思い、長崎大学の大学院を選びました。
ー 長崎大学の大学院のプログラムについて教えていただけますか?
松下先生:長崎大学大学院のグローバルヘルス研究科の修士課程、博士前期課程と呼ばれるものです。
3つのコースがあり、熱帯医学コース(Tropical Medicine Course)・ヘルスイノベーションコース(Health Innovation Course)・国際健康開発コース(International Health Development Course)です。わたしは、熱帯医学コースで熱帯医学修士を選びました。熱帯医学コースは医師のみがアプライできるコースです。
最初のタームでは、3つのコースが同じ授業を一緒に受けます。その中で自分の立ち位置、グローバルヘルス領域でどういったところの役割を担っているのかっていうのをみんなで勉強して、それ以降のタームは、それぞれの専門分野のことを学び、研究を進めていくという構成です。
長崎大学大学院グローバルヘルス研究科についてはこちら
ー 大学院に通いながら、中央病院での勤務はどのようにされていたのでしょうか?
松下先生:サテライト制の社会人大学院生という立場で入学しました。 オンサイトの場合はずっと現地で過ごし1年で修了するプログラムです。
通常、サテライトの場合は2年のプログラムですが、熱帯医学の専攻の方は、2年で卒業される方はほとんどいらっしゃらず、3年以上かかる方も多いです。
同期と呼べる同じタイミングで卒業するだろうっていう方が5人いらっしゃったんですけど、最終的に、2年で卒業できたのは自分を含めて2人だったんです。
かなり濃密なコースなので、県中のサポートがあったからこそ、無事2年で終われたかなっていうところが大きいと感じています。
ー 社会人大学院生で通常の勤務をしながらですと、とてもハードですね。中央病院ではどのように勤務されていたのでしょうか?
松下先生:基本的には週3回勤務をさせていただいて、週2日を大学院のことに充てさせていただきました。
外科専攻だったのですが、大学院に入ると同時に主に救急診療を担当するようになり、研究に合わせフレキシブルに休みを取らせていただきました。
大学院の予定に合わせて適宜休みを取りやすい環境を作っていただけました。
ー 大変だったエピソードを教えていただけますか?
松下先生:2つあります。
1つは、とにかく授業が多くて、全て英語で行われることです。テストが多く、授業のコマ数も本当に多かったです。
熱帯医学関連で、修士とは別の資格の熱帯医学・衛生学ディプロマコース(DTM&H)というものがあります。
それが3か月の集中コースで、熱帯医学修士とは別に開講されており、その期間世界から生徒が集まってくるのですが
本当にもう授業が密で朝の9時前から6時ぐらいまで毎日フルで授業があって、その間に実習もやって、最終のテストもある。さらに間にグループワークや課題のレポートも入ってきて…
大学生の頃より濃密でした(笑)
松下先生:もうひとつは、研究の方で、その倫理審査。
研究のフィールドがネパールだったので、倫理審査を長崎の方で通った後にネパールに出して、それが通って初めてネパールに渡航の調整ができるという流れなのですが、
ネパールの方の倫理審査が、ネパールタイムなので、いつ通るかわからないっていう...(苦笑)
なんとかネパールの倫理審査が通った時には、卒業に間に合わせるには1ヶ月後に渡航しないといけなくなってしまってバタバタでした。
ー 卒業後の中央病院での役割や展望について聞かせていただけますか?
松下先生:フィールドは救急外来かなと思っています。
先日もそのインドネシア帰りの方の発熱っていう方がいらっしゃったのですが、大学院に行く前と後でやっぱり考える病気のことがかなり変わりました。
外国人の方に限らず、日本人の方も渡航して帰ってきて具合が悪くなりましたというケースの時に熱帯関連の疾患にかかってる可能性は十分あって、大学院で学んだことを活かしてそういった方の受け皿になる場所で活躍できたらと思っています。
また、渡航外来のようなものにも協力できればと考えています。
ー 松下先生のように学びたいと思う後輩のドクターへのアドバイスやメッセージをお願いします
松下先生:自分の場合は支えてくれたのが救急科でしたが、大学院に行ってネパールに行かせてもらったりこういったフレキシブルな形で授業を受けさせてもらえる環境はなかなかないと思います。
支えてくれるメンバーやプロテクトされた時間を提供してくれるシステムが中央病院にはあるので、多彩なキャリアを積むことができることはすごく魅力だと思います。
自分のやりたいことがある後輩の方には、チームメイトになって次は支える立場に回っていきたいと思います。ぜひ、県立中央病院で一緒に働いてほしいです。
ー 救命救急センター長 川下先生よりメッセージをいただきました
川下先生(徳島県立中央病院救命救急センター長):
研究やキャリアはひとりではなくみんな、チームで分かち合いながら目指していくものだと思っています。
獲得できたらみんなで喜び、次の種を蒔くのもみんなで。そうやってチームでつなげていけるように、県中には歩んで行ってもらいたいなと思います。
松下先生!素晴らしい!誇らしいです。おめでとう。